みなさん、こんにちは。
ほめ達認定講師養成講座では、モチベーション理論についてのプレゼンをする機会があります。いくつかある理論の中から受講生ごとに異なる理論が指定されるのですが、僕は「学習性無力感」を指定されました。
今回はこちらのプレゼンの内容をご紹介します。
それでは、今回もよろしくお願いします。
学習性無力感とは
学習性無力感とは、回避できないストレスに長期間さらされることで、状況を改善しようとする努力すら放棄してしまう心理現象です。
具体的には、努力しても結果が出ない状況を繰り返し経験することで、「何をしても無駄だ」と思い込み、自発的な行動をしなくなる状態です。
アメリカの心理学者である「マーティン・セリグマン」という方が提唱した理論です。
診断士なら企業経営理論でモチベーション理論を学習していますが、学習性無力感は学習していないと思います。
学習性無力感の例
以下にいくつかの例を提示します。実際にこのようなことを経験されたことはありませんか?
学校・勉強における例
どんなに努力しても、テストで良い点が取れない、または授業内容が理解できない状況が続くと、「どうせ自分は勉強ができない」と思い込み、勉強をやめてしまうことが挙げられます。
また、資格試験の勉強をしたが不合格だった場合、「努力しても結果が出ない」と感じて、次回の挑戦をためらうこともあります。
診断士でも、多年度受験生はモチベーションが切れやすいと言われますが、それはこの学習性無力感が働いてしまうからです。
仕事・職場における例
企画書を何度も提出しているのに上司にいつも却下される場合、次第に「どうせ自分の提案は受け入れられない」と諦め、提案する意欲を失ってしまいます。
また、部下が上司からパワハラや理不尽な叱責を繰り返し受けることで、「何をしても無駄だ」と感じ、問題を解決しようとする努力を放棄することも例として挙げられます。
「パワハラ」とあるように、学習性無力感はハラスメント(主にパワハラ・モラハラ)とつながっています。
このように、学習性無力感は「何をしても状況が改善されない」という経験を繰り返すことで、「自分の行動は無意味だ」と学習してしまう状態を指します。

学習性無力感の主な特徴
学習性無力感には以下のような特徴があります。基本的にはネガティブなものになります。
無気力・無反応
状況を改善できるはずの場面でも、抵抗や回避の行動を取らなくなります。これはこの後説明する実験でも有名な話です。
意欲の低下・行動の抑制
「次もどうせうまくいかないだろう」と期待や意欲が失われます。上記の勉強や仕事の例がそれです。結果、学習への意欲が低下したり、ミスを恐れて新しいことへの挑戦を避けたりすることもあります。
ネガティブな感情(メンタルヘルスへの悪影響)
抑うつや不安、警戒心の強さといった感情的な不調を引き起こすことがあります。
学習性無力感は長期にわたり逃れられない苦痛やストレスに晒され続けると、何をやっても状況を改善できないという感覚を学習してしまい、そこから逃れようとする努力を放棄し無反応になってしまう現象です。
セリグマンによれば、人のうつ状態はこれと同様の反応であるとみることができます。
うつ病など精神疾患のリスクを高める可能性があるため、長期間続く場合は専門家への相談も検討します。このへんはメンタルヘルスにも関わってきます。

学習性無力感の実験
セリグマンは学習性無力感について、犬を被験体とした実験的研究でこのことを証明しています。これは心理学では有名な実験です。

被験体となった犬の一方のグループは、第1日はハンモックに吊され、身動きできない状態で短い電気ショックを何度も与えられます。もう一方のグループでは、同じように吊されはしますが電気ショックは与えられません。
翌日、今度は低い柵で2つに仕切られた箱(シャトルボックス)に入れられます。この箱の中では、ランプが点いてから10秒後に、犬が置かれた方の床に電気ショックが流れますが、柵を跳び越えて隣の床に逃れればショックを回避することができ、そのまま留まっていれば1分間の通電ショックを受けることになります。
第1日にハンモックに吊されるだけで電気ショックを与えられなかった犬では、シャトルボックスの中ではすぐに柵を跳び越え隣の床に逃げることを学習しました。ところが、ハンモックに吊され電気ショックを与えられ続けた犬では、その場に留まったままで柵を越える行動は見られませんでした。
つまり、第1日目の電気ショックは自分では逃れることのできないものであり、どのような努力をしても苦痛を回避することは不可能であるということを「学習」してしまった結果、第2日はなす術なく電気ショックにさらされるままになっていたと解釈できます。
セリグマンは、犬に見られたこの反応を「学習性無力感」と名づけました。
学習性無力感が起きる原因
学習性無力感はなぜ起きるのでしょうか?
以下で説明していきますが、もしかすると実感のある方もいらっしゃるかもしれません。
「努力しても無駄」という経験の繰り返し
どんなに頑張っても、期待した結果が得られない状況に置かれると、努力しても無意味だと学習してしまいます。
過度な指摘や注意
いつも指摘や注意をしてくる人っていますよね。そういう人がいると、連絡したり会ったりすることが嫌になると思います。また、ミスやできていないことへの指摘や注意ばかりが続くと、努力しても改善されないと感じるようになります。その結果、「だったらやっても意味がない、どうせ何か言われるなら最小限の負担でやろう」となってしまうのです。
メンタルヘルスでもこのあたりは重要性が増しています。近年、「注意しない、怒らない」上司や先輩が増えているのは、パワハラやモラハラにつながることだけでなく、相手にこの学習性無力感を与えてしまうことも原因になっています。
言い方を変えると、過度な指摘や注意は「評価されない状況」とも言えます。部下の努力や成果に対して上司が反応しない状況が続くと、意欲が低下していきます。
学習性無力感の対処法・克服方法
さて、ここまではうんざりするほどネガティブなことばかりでしたね。ご安心ください。ここからはポジティブな内容です。
学習性無力感の対処法であり、原因も症状もネガティブな学習性無力感をポジティブなモチベーションにつなげていく方法をここからご紹介します。
このあたりからほめ達の内容が絡んできます。
学習性無力感の提唱者であるセリグマンは、若い時代に学習性無力感の研究を発表し世界的に注目されました。その後多くの研究業績を重ね、人の弱さの側面だけでなく、強みや長所、美徳といった側面も明らかにし、人のもつポジティブな機能を研究していく必要性に注目するようになりました。こうした主張は「ポジティブ心理学」と呼ばれ、多くの研究者の共感と新しい研究を生み出しています。ポジティブ心理学の提唱者であるセリグマンは「ポジティブ心理学の父」とも呼ばれています。
学習性無力感は、本来なら「何をしても無駄だ」という経験を重ねた結果として生まれる心理状態ですが、実はその経験を正しく再解釈することで、逆に強いモチベーションの源にもなります。
つまり、段階的に「無力感 → 再解釈 → 成功体験 → ポジティブな動機」に変えることができれば、学習性無力感がポジティブなモチベーションに変わります。
ステップ①:再解釈
ポジティブ心理学では出来事の再解釈が鍵だとされています。例えば何かに失敗したとして、「あの失敗が自分を壊した」と考えるのではなく、「あの経験が自分に必要な耐性を教えてくれた」と考えます。このあたりはほめ達のスキルでもやりましたね。
こうすることで、失敗した原因を前向きに考えることができるようになり、「こうすればうまくできそうだ、別のやり方で乗り越えられそうだ」といった前向きな解決策を見つけられるようになります。
このように、過去の失敗を「痛み」ではなく「今の自分を育てた土壌」として扱うと、感情が前向きに変化します。
このように、ネガティブな出来事が起きたときに、「無能」とか「能力の欠如」などのネガティブな意味づけではなく、「戦略ミスの発見」とか「成功への一歩」などポジティブな意味づけをすることにより、感情が前向きに変化し、改善への動機が湧きます。
ステップ②:成功体験
無力感の克服には「成功体験」が欠かせません。重要なのは大きな成功ではなく小さな達成です。
課題の難易度を下げたり、成功の可能性を広げたりして、「やってみたらうまくいった」という経験を積ませていきます。そして、過去の成功体験を振り返り、「小さな自己効力感」を積み上げる形で自己効力感を回復させていきます。
例えば1日5分だけでも目標に近づく行動をする、進捗を「見える化」する(チェックリスト・日記など)、過去に克服できた経験を思い出して自信をつける、などです。
このように、「自分でもできた」とか「進んでいる」という実感が、無力感を打ち消す力になります。
ステップ③:ポジティブな動機
企業経営理論でも「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」をやりました。
外発的動機づけとは、主にお金や賞賛(ほめられること)など、他人からもたらされる動機づけです。一方、内発的動機づけとは、自分から出てくる動機づけです。
ポジティブ心理学では、外発的動機づけではなく、内発的動機づけに焦点を当てていきます。
無力感は「他人に評価されない」とか「努力が報われない」といった外的要因への依存が強いほど出てきやすくなります。一方、ポジティブな動機は内的要因への依存が強いほど出てきやすくなります。
外的要因への依存を抜け出し、内的要因への依存を強くするためには、先ほどの成功体験の積み重ねが重要になります。小さなことでもいいので成功体験を積み重ねることによって、モチベーションに関する軸が「他人の評価・意見」よりも「自分が本当に価値を感じること」に移っていきます。例えば「評価されたい」よりも「成長を実感したい」、「勝ちたい」よりも「上達を楽しみたい」などに変わっていきます。
このようにしてモチベーションが「他人:外発的」から「自分:内発的」に変わると、折れにくく持続的なモチベーションを生み出すことができます。
《今日のほめフレーズ》
画面越しでも(文章でも)●●さんの思いが(雰囲気の良さが)伝わってきますね
今回は学習性無力感について見ていきました。
今回もありがとうございました。